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2008年6月 パリで見つけたこの春の一押し!

| 2008年06月12日 13:18 | 吉村正臣 |

パリで絵本が最も充実し、数もたくさんある本屋さんは、以前にも紹介した「Chantelivre」(6区 13, rue de Se`vres・・・2006年1月30日の記事参照)だと思いますが、ここで素敵な絵本を見つけました。
絵本といえばいいのか迷います。というのは、ご覧のとおりかわいい人形のキャラクターが写真で表現されているのです。

さて、本のタイトルは、「Le livre des grands contraires philosphiques」(哲学的反証の本)、文章は、哲学者のオスカー・ブルニフィエ。子供に理解できるようやさしく書いた哲学上のお話を、ジャック・デプレが愛らしいキャラクターを作り、背景をつけ写真作品にしました。
オスカーの書く哲学テーマに応じ、さまざまな衣装をはおったこのキャラクターが登場。ダンスをするシーン、ピアノを弾くシーンなど、美しくフランス的エスプリのある色彩でシーンがつくられています。

難しい哲学を、このように説明され、映像化されれば読んでみたいな…と、思うに違いありません。そんな、見事さもあって、2つの賞を受賞しています。

フランスでは、大学入学資格試験(バカロレア)の初日に4時間に及ぶ「哲学」の筆記試験があります。文系だけでなく理系にも課せられるとか。高校には「哲学」の授業があり、ギリシャ哲学からサルトルなど学びます。
フランス人は哲学好き、カフェは哲学を論じながら友達を見つける場…と言われますが、まさに「哲学」を子供のころから学ぶ、お国柄なのでしょう。

ですから、すこし一般の絵本とは違いますが、この絵本、ぜひ見てほしいと思いました。掲載されている「哲学」の一編を紹介しましょう。美しいキャラクター写真とともにお楽しみください。

ジャック表紙1
原題 Le livre des grands contraires philosophiques(哲学的反証の本)

テキスト:Oscar Brenifier(オスカー・ブルニフィエ フランスの実践哲学者)
キャラクター制作:Jacques Despres(ジャック・デプレ)


■フランス国営放送・フランステレビジョンPrix Jeunesse 2008 受賞

(Prix Jeunesse=青少年向け出版物の優秀作品賞/権威のある賞のひとつ)

■出版社が選ぶ Prix de la presse des Jeunes 2008 受賞

(Prix de la presse des Jeunes=青少年向け出版物の優秀作品賞/
権威のある賞のひとつ)


「出版社が選ぶ Prix de la presse des Jeunes賞2008」によるこの本の批評

大人にもこどもにも、ぜひ読んでほしい本。文章は平易で、キャラクターがすばらしい。各見開きは、時間や空間の概念と切り離せない哲学的世界を、わかりやすく、魅力的に描かれている。
「思考をどのように見える形にするか」が、この本の特長であり、他にない魅力である。
12の相反する概念(無限と永遠、自己と他者、肉体と精神など)を定義しながら、それらがどのように相反し、どのように関係があるのかを示していく。

ものごとを理解するために、視覚化することの大切さを教えてくれる本である。


●内容の一例(翻訳)

第2章 Fini et infini (限りあるものと限りないもの)・・P.14〜19
02

P.14
「限りがある」というのは、その始まりと終わり、あるいはその両方が、
私たちにわかるもの。
私たちには、「限りがある」ものの形や、視線のいきつく終点がみえる。
ひとつの円は、その中心がわかり、円周が決まると 「限りがある」ものになる。

P.15
「限りがない」というのは、その始まりや大きさ、あるいはその終点によって、
それが何なのか、わからないもの。
ひとつの円は、その円周がわからないとき、また円周を測ったり、
どんなものか想像さえできないとき 「限りがない」ものになる。
03

P.16
宇宙は、広大な何もない広がりの中にある、砂の粒…

P.17
あるいは、その広がりがあまりにも大きいので、私たちは宇宙を理解することや
想像することができないのかもしれない。
04

P.18
「限りがある」は、「限りがない」と対立する概念である。

しかしながら、私たちは「限りがある」数を延々と数えることで、「限りがない」ことを理解する:1,2,3,4…というように。
また「限りがある」数は、限りなく分解することができる:4,2,1,1/2,1/4…と。

宇宙にあるちりの粒も、分解することができる。わたしたちの想像を超える地点まで。
同様に、これら宇宙に散らばる粒は、限りなくふえていく。

宇宙とは、このように、限りがある事物で構成された、限りがない<無限の>存在である。

宇宙の巨大な広がりの中で、私たちは途方にくれる。
しかしその無限の存在は、私たちを魅了する。

自分たちがどこにいて、どんな人間で、
私たちの「限りがある」ことは何か、「限りがない」ことは何なのか、を理解するために
宇宙は、わたしたちに必要な存在だから。