ヨーロッパの一流イラストレータ イタリア、フランス、ベルギー、ドイツで活躍中のアーティストを紹介
   
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今、絵本イラストレーターは、まさに冬の時代を迎えています。

| 2018年02月05日 10:14 | 吉村正臣 |

〜フランスの実情を見てみましょう。日本はどうでしょう?〜

ル・モンド 2017年11月24日 別冊「モントルイユ絵本市特集号」第2面

タイトル:La création en mode survie (絵本イラストレーター 生き残りの方法)

新聞1

前文
飽和状態の絵本市場、著作権料の乏しさに、イラストレーターは別の収入源を求めざるをえない。不安定さを増す絵本の世界を取材した。
(フィリップ=ジャン・カタンシとフレデリック・ポテの署名記事)

本文
絵本の世界に広がる、作家たちのふつふつとした怒りは爆発寸前だ。しょせんは歯車のひとつとみなされることへの嫌悪感や、経済的に不安定な状況を告発する作家が数か月前から続出している。怒りの主たる対象は、ギャランティと著作権料の低さにある。一般書籍およびバンド・デシネでは、売上に対する作家の著作権料は販売額の10%であるのに対し、絵本や児童文学は6%だ。2017年の絵本出版社の売上高は、3億2400万ユーロ・前年比で+5.2%の高い伸びなのに、作家にとっては、収入に見合わない社会保障負担額の上昇、入金までの期間の長期化、収入の低下と不満がつのるばかりなのだ。

状況は、とりわけイラストレーターにとって深刻である。これまでにも見受けられたが、今日、収入の低さをカバーしようと、イラストレーターが1年に3、4冊あるいはそれ以上に絵本を出版する現象があとをたたない。人気イラストレーターのひとりマガリ・ル・ユシュ(Magali Le Huche)は、2017年4つの出版社から少なくとも6冊を出版した(具体的な書名と出版社は略す)。

市場の論理に巻き込まれないイラストレーターもいる。高い人気と実力を備えるアンヌ・エルボー(Anne Herbauts)やフランソワ・ロカ(François Roca)は、1年に1冊のペースを守っている。こうして自らのペースで活動できるのは、絵本出版とは別の仕事を持つイラストレーターに多い。その中のひとりロナルド・クルショ(Ronald Curchod)は「絵本出版で儲けようとは思わない。知名度は得られるが、ポスター制作、グラフィックデザイナー、あるいは商業イラストレーターとして、収入を稼いでいる」と語る。メイ・アンジェリ(May Angeli)も、木版画家が第一の仕事だと言い切る。「ずいぶん以前から絵本を出版しているので、とりわけ今、危機感を感じることはない。でも、これからデビューする絵本作家にとっては、最悪の状況」

ルモンド2

新人だけでなく、ベテラン作家にも状況は厳しさを増している。レリーフ作家のリオネル・ル・ネウアニック(Lionel Le Néouanic)は「絵本では利益は出ない。あちこちの学校や図書館に出向いてのさまざまな活動があってこそ」と告白する。レリーフ作品のポスター価格が下降を続けるのでなおさら、と悔しさをのぞかせる。本来であれば、補助的な活動である教育機関での仕事が、今や多くの絵本作家にとって欠かせない収入源になっているのだ。原画を販売することは、解決策として考えられるが、それがうまくいくイラストレーターはまれである。「絵本になった原画なら買ってもらえる。ただ原画の一部がなくなると、絵本はおしまい。再販はできなくなる。原画が必要になるときがあるから」アンヌ・エルボー(Anne Herbauts)は主張する。

イラストレーターの世界では、絵本の仕事はお金にならないという意見が、大半を占めている。ジェレミー・フィッシャー(Jérémie Fischer)は、イラストレーターとしての活動とともに<Pan>という イラストレーション誌を編集・出版している。インタビューしたその日は第4号の発売日だった。「本作りは、作った時点では利益は出ない。でも、いずれ実を結ぶかもしれない。一冊の絵本が大衆や専門家に認められるきっかけとなり、新聞や雑誌からの作品依頼、教育機関からの招待につながるだろう」そのうちにアーティスト・イン・レジデンス(国内外の滞在付制作活動支援)や奨学金が得られることもある。

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一方、イラストレーター業界には、この仕事を選んだ者として「お金にこだわっても仕方ない」という考え方も広がっている。フレデリック・ベルトラン(Frédérique Bertrand)が語る。「この世は、お金だけなのか。私は本を出版することで、お金とは別の利益を得ている。たとえば、自分の思い通りに制作できた喜びとか」彼女は2017年オンブロシネマ効果を用いた人気シリーズPyjamaramaの新作を出版した。マルク・ブータヴァンもきっぱりと答える。「本の出版は、自らの決断であり、やる気であり、必要なこと。それが私の生き方だから」

絵本出版界の現状維持の姿勢は、問題の解決に至らない。ジョエル・ジョリヴェ(Joëlle Jolivet)は、2015年以来絵本を出版していない。私がイラストレーターになったのは、絵本や児童向け書籍の出版が急増した1990年代です。斬新で奇抜なものを作ることができました。編集者たちは浮かれていました」年間6000冊という現在の出版過剰は、彼女によれば、破れかぶれの状態でただ突き進んでいるだけだという。「本も、作家も多すぎるんです」イラストレーターに対する金銭的な圧迫は強すぎるのに、出版社側からのリスク回避策はほとんど見られない。新刊ばかりを求める傾向が、よい本の再版を阻んでいる。

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こうなれば、イラストレーター側が臨機応変にやるしかない。この記事の挿画を描いたキャロル・シェクス(Carole Chaix)はいち早く、出版周辺の分野で創作活動を始めた。絵本出版の裏舞台を原画やスケッチブックに描き、見たい・来たい、読みたい雰囲気を大がかりに作り出した場所や彼女が<手作りの住居兼アトリエ>と呼ぶ場所で展覧会を開催する。即興で自身のイベントの進行役を務めることは、彼女は必要悪だと認識している。「(自分の作品が世に認められるためには)種をまかないといけない。そこから芽が出るかどうか、見ていかないと。でもいったい、いつまで続ければいいのか…」