イラスト・ユーロ 翻訳クラブ

ISSUN BÔSHI 4

パリで見つけた絵本の〈翻訳クラブ〉 par 泉りき

テキスト ISSUN BÔSHI NO.4  P.21 〜P. 26

 

 

 

 

一寸お嬢さんと

 P.22のポイント

 Une jeune fille apparut alors et supplia:

そこへ一人の娘がやってきました。どうやら領主のお嬢さまのようです。父親に懇願します。

Donne-moi ce petit être,

ce petit êtreは、“小人”ですが、日本語では差別的なニュアンスもあるので、その小さい者とか、あえて小さいことに触れず、「その者」とする方がよいでしょう。

ceは「この」がまず思い当たりますが、位置関係や、すでに登場したものについて訳すなら「あの」「その」が適切な場合もあります。

il me fera la lecture,

本を読んでくれるし

me tiendra compagnie.

お供もしてくれるでしょう

Épuisé par ce désordre, le seigneur céda à sa fille et embaucha Issun Bôshi.

「この混乱で、くたびれ果てた領主は、娘の願いを聞き入れ、一寸法師を雇うことにしました」としました。外の騒ぎと娘の不意の申し出に、さすがの領主もお手上げ状態だったのでしょう。

 

  P.23のポイント

Dès lors, Issun Bôshi accompagna partout la jeune fille.

それ以来、一寸法師はどこへ行く時も、お嬢さまのお供をしました。

Un jour, il chantai ; le suivant, il dansait…

Un jour, ….. ; le suivant, ….. le suivantは、le jour suivantと、前のjourを補って考えてください。

直訳すると「ある日は… 次の日は…」です。ここでは、歌を歌ったかと思えば、踊って見せたりもした、と訳しました。

 

Le temps passait et il s’appliquait à inventer tours et chansons pour distraire sa jeune maîtresse.

toursは塔ではなく、ここでは「芸」のことです。彼の若い主人は、お嬢さまのことです。お嬢さまを喜ばせようと、(オリジナルの)芸や歌づくりに取り組んだのですね。

 

Celle-ci était ravie d’avoir une poupée qui savait lire et penser.

字が読め、考えることのできる人形を手に入れたと、領主の娘は大喜びでした。

 

以下からは、単文が「,」でつながりますので、なかなか複雑です。分かりやすく、切って訳していきましょう。

1行目です。

Mais le petit homme commençait à se dire qu’il serait bien agréable d'(être juste une fois,)

se dire que+文(直説法)は、「(que以下の文章)だと思う」です。

しかし一寸法師は、commençait à se dire思い始めていたのです。何を思い始めたのでしょう?que以下のことですね。qu’il serait bien agréable=条件法現在です。

2行目

現実にはありえない仮定が、de以下に書かれます。de以下ならどんなによいだろうか、と。

d’être juste une fois, pas vraiment plus grand,

juste une foisは、せめて1度だけでも。 pas vraimentは、それほど大きくなくても。

「せめて1度だけでも、それほど大きくなくても・・・」ということですね。

3行目

peut-être un peu moins petit,

今よりわずかに大きければ

pour qu’elle le regarde autrement,

お嬢様が一寸法師を、人形ではなく、別の目で見てくれるために(一人の男として見てくれるために)

4行目

d’autant qu’elle était très jolie.

(一寸法師がそんな風に恋い焦がれるほど)それほど、お嬢様はきれいでした。

「せめて1度だけ、それほど大きくなくていいから、今より少し大きくなれば、どんなにいいだろう、と一寸法師は思い始めていました。そうすれば、お嬢様は人形ではなくて、ひとりの男として見てくれるに違いない。そんなふうに恋い焦がれるほど、お嬢様はきれいでした」としました。

この部分は、複雑な、入り乱れたような文章になっています。苦労するところですね。

 

  P.25のポイント

Un jour de promenade en forêt, alors qu’Issun Bôshi…

ある日、森を散歩しながら、一寸法師は、アリと毛虫の戦いをまねしてお嬢様を楽しませていると、独特のにおいがする赤ら顔の鬼が、出てきました。

Te- ke- ke! Merci, Bôshi! Bôshi, tu m’apportes…

tu m’apportesは、現在形の文章です。「おまえはわたしにもってくる」が直訳です。

ですが、すでに持ってきているので、“もってきてくれたんだね”と過去形にするほうがよいでしょう。このようにフランス語の原文が、現在形で書かれていても、日本語として読んだとき、より自然な形にするために、行為は過去形にする場合があります。

Merci mille fois は、“千回ものお礼”ですから、“たいへん感謝する”です。

mon petit! は、文脈でおわかりの通り、一寸法師のことですが、ここでは、鬼が自分の子分として、また身体が小さいので、親しみ半分、見下し半分の呼びかけでしょうか。

A cet motsは、“言うなり…”です。

鬼は、娘をはがいじめにして、一目散に逃げて行ってしまいました。

A cet motsは決まり文句で「そう言うと、そう聞くと」です。ここでは「そう言うやいなや」としました。

一寸法師が自分のために、お嬢様を奪ってきてくれた、と鬼は勘違いしています。一寸法師に言い放つシーンは、鬼を悪者として訳すと、一寸法師とのコントラストがはっきりします。

「ありがとうよ、小さいの!俺が頼んだお宝を、ついに持ってきてくれたか。礼を言うぜ。

言うなり、オニはお嬢様を小脇に抱えて一目散に、逃げ去りました」

 

  P.26のポイント

Rapide, Issun Bôshi les rattrapa, sauta, s’agrippa, griffa et mordit le colosse…

すばしっこい一寸法師は、娘をつれた鬼に追いつき、とびはね、しがつきました。

そして、力をふりしぼって、大男を爪でひっかき、かみつきました。

Rapide は形容詞です。すぐ後ろの主語を形容します。ここでは一寸法師の性質を表しています。

もし「すばやく追いついた」と、動詞を修飾するのであれば、形容詞rapideではなく、副詞

rapidementを使い、位置はrattrapaの後ろに置きます。

形容詞が主語の前に来て、文章が始まる。この絵本では何度も登場した形です。

 

Agacé par cet avorton, l’ogre l’avala tout rond.

Agacéは、“いらだつ”ですね。

小さな一寸法師が、なかなか抵抗をやめないので、鬼はいらだち、彼をまるごと飲み込んでしまいました。

 

参考

Issun Bôshi, Bôshi, il, cet avorton…

l’ogre, le colosse…

一寸法師や鬼をあらわす単語が、さまざまに出てきました。これは、すでにおわかりのように、同じ単語の重複を嫌うための言い換えです。日本語でもそうですが、フランス語も同じです。

このilは、だれを指すのかな・・・と迷うときが多々あります。前の文章をよく読んで、ヒントを探しましょう。

 

さて、一寸法師は、鬼に飲み込まれてしまいました。どうなるのでしょうか?

 

issunn13-700

※このNO.4の原稿は、2015年8月30日に書いたものです。

この絵本の解説と他の絵は:http://www.illust-euro.com/?cat=157

この絵本のお取寄せは:http://illust-euro.ocnk.net/product/241

次回   NO. 5 は、 P.28 からです。

お断り
翻訳クラブでの翻訳は、同好メンバーの勉強や研究のために行っているもので、商業目的ではありません。
La traduction français-japonais fait partie des exercices pratiques de Honyaku Club, non pas à but lucratif, ni commercial mais juste pour apprendre la langue française.
The French-Japanese translation is part of practical exercises Honyaku Club. It is for study purpose only, not for profit or commercial.