イラスト・ユーロ 翻訳クラブ

ISSUN BÔSHI 5

パリで見つけた絵本の〈翻訳クラブ〉 par 泉りき

テキスト ISSUN BÔSHI NO.5  P.27 〜P. 30

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① P.27のポイント

 Précipité au fond de l’estomac, Issun Bôshi sentit monter en lui une colère terrible.

 文章の最初の動詞précipitéは、précipiter=(突き落とす)の過去分詞で、ここは分詞構文です。一寸法師は「~されて」の受け身の形となります。「(高いところから)胃の底に投げ落とされて・・・」となりますね。

前ページの絵に、鬼の口に落とされる様子が描かれています。

「鬼に対して、強い憤りがこみあげてくるのを感じました。」

Il saisit l’aiguille à sa taille et l’enfonça dans les entrailles du géant :

à sa taille 腰につけた、ですので「腰の針を取り出すと」となります。

l’enfonça 針を突き刺しました どこへ突き刺したのかというと、dans 以下の「鬼の臓物に」です。

Il entailla, piqua et repiqua, tel un frelon, telle une guêpe.

彼は、スズメバチのように、何度も突き刺し、傷を負わせた。

telは、tel(le)(s) + 不定冠詞 + 名詞 = ~のような, ~のように・・・としましょう。

un frelon, とune guêpeが出てきます。同じスズメバチですが、雌と雄の違いのようなので、特に際立たせて訳す必要はないでしょう。

さて、前の行末に「:」があります。「:」について質問が来ました。

たいへんすぐれたオンラインフランス語サイト「北鎌フランス語講座-文法編」から引用します。http://class.kitakama-france.com/

ドゥポワン deux-points=「:」という記号のこと。英語のコロンに相当します。フランス語で deux-points と書きますが、これは文字通り「 2 つの点」という意味です。
同格・言い換え・説明を追加する場合によく用いられ、「つまり」「すなわち」と訳すとぴったりくる場合が多いと思いますが、特に訳さないほうが自然な場合もあります。

(NO.2でも説明しています)

 

Rien ne lui échappa, ni le foie, ni les reins, ni le cœur, ni la glotte, tant et si bien que le monster, tordu de douleur, le recracha.

Rien ne lui échappaは、すべてのことが彼から逃れられない・・・ので、「一寸法師の執拗な攻撃から鬼は逃れられない」

攻撃は、肝臓、腎臓、心臓・・・と。

tant et si bien que・・・ あまりも〜なので・・・ の決まり文句です。

「鬼はあまりの痛さに耐えかねて・・・」となり、一寸法師をはき出してしまいました。

Rien neは、日本語には訳しづらいので、どんな状況か考えた上で訳すとよいでしょう。

 

  P.28のポイント

 À peine libéré, Issun attrapa à la vitesse du frelon le maillet magique de l’ogre, Uchide no Kozuchi, « celui qui exauce les souhaits ».

胃の中に閉じ込められていた一寸法師は、苦しみから解放されると、素早く鬼の打ち出の小槌を取り上げました。

«celui qui exauce les souhaits» は、一寸法師の台詞ではなく、直前の「うちでのこづち」の言い換えです。会話だけでなく、引用の場合もこのギュメ«  »が用いられます。

ここでは「どんな望みもかなえられる、うちでの小槌」です。

翻訳は、どんな望みもかなえられる、うちでの小槌を奪い取りました・・・となります。

sous les regards stupéfaits de…  = びっくり仰天したお嬢様や鬼の目の前で、

(一寸法師はどんどん大きくなりました。)

Celui qui n’était pas plus grand qu’un pouce d’enfant devint un home fort, puissant et, surtout, terriblement en colère.

étaitは半過去形、devintは単純過去形です。~だった(半過去形)一寸法師が、突然○○になった(単純過去形)となります。

「子供の親指にも満たない背丈だった彼が、急に強くたくましい男に変身した」

surtout, terriblement colère わざわざsurtoutとあるのは、どういうわけなのでしょう?たくましく、強い男になり、(とりわけ)悪い鬼に対しては激しい怒りでやっつけた・・・ことを強調しているのでしょうね。

「・・・鬼を威圧するほどの、強くたくましい男になった。」

「・・・鬼への怒りを持つ、強くたくましい男になった。」 のようなことだと考えます。

 

うちでの小槌がなくなり、おびえた鬼は、悲鳴をあげながら、大急ぎで逃げて行きました。

 

Ti – Ki – Ki !  Ti-Ki-Ki !  Ti – Ki -Ki !

ティ・キ・キ! ティ・キ・キ! ティ・キ・キ!

喜びのテ、ケ、ケ!ではなく、ここはあわてて退散する「ティ・キ・キ」と擬音が変化しています。

 

P.30のポイント

 On dit que l’on peut encore apercevoir, en se promenant au fond des bois.

un petit ogre …

on dit que l’on peut encore apercevoir 今も気づく、とのことです→ 森を歩いていると、鬼がいることに気づく、の意味ですね。  「今も見かけるとの噂です」としました。

 「森の中を歩いている時、穴のあいた胃の痛みを和らげるため、葉を食べている小さな鬼を、今も見かけるとの噂です。」

On dit qu’Issun Bôshi regrette parfois sa petite taille et qu’il garde précieusement son bol de riz et son aiguille.

「一寸法師は、ときおり小さな身体だったことをなつかしみ、お椀と、針を大切にしていたそうです。」としました。

On dit que la fille du seigneur a posé un nouveau regard sur Issun Bôshi et que leur histoire n’est toujours pas finie.

最後の行です。

「領主のお嬢様は、新しいまなざしを彼に注ぎました(一寸法師を一人前の男として見直したのです)。そしてこの昔話は、いまでも語り継がれているそうです。」

 

以上が、『Issun Bôshi』の、翻訳のポイントです。

翻訳クラブの参加者の皆様のからの、翻訳例や質問を使いながら、以上のまとめを作ってみました。参考にしていただければ幸いです。

 

<ご質問より>

この絵本に使われている  « » –  について

● « » ギメ 

・地の文の中での直接話法の際、 「」の役割として一般的に使われます。

« »も前後に主節、もしくはそれに類するフレーズが付く場合が多い。

Il dit : «Je suis…….. »

・付随的説明の表記にも使われます。( )の役割として考えればよいでしょう。

● – ティレ

・直接話法の会話文で、複数の話者が交互に話す場合に使われるケースが多い。

ただし、書き手によって、記号の運用はかなりばらつきがあります。この絵本にも見受けられました。

また最近は、会話文は “  ” でくくる人もいます。

一般的な使われ方を参考に、ひとつの文章の中で、統一した使い方ができていればよいと思います。

 

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※このNO.5の原稿は、2015年9月20日に書いたものです。

この絵本の解説と他の絵は:http://www.illust-euro.com/?cat=157
この絵本のお取寄せは:http://illust-euro.ocnk.net/product/241

次回  『 i minuscule 』 をテキストに翻訳します。

お断り
翻訳クラブでの翻訳は、同好メンバーの勉強や研究のために行っているもので、商業目的ではありません。
La traduction français-japonais fait partie des exercices pratiques de Honyaku Club, non pas à but lucratif, ni commercial mais juste pour apprendre la langue française.
The French-Japanese translation is part of practical exercises Honyaku Club. It is for study purpose only, not for profit or commercial.