ISSUN BÔSHI
L’enfant qui n’était pas plus haut qu’un
2013年出版 ACTES SUD JUNOIR / ICINORI(絵・文)/
2014年ボローニャ・ラガッツィ優秀賞(フィクションの部)を受賞
この絵本ISSUN BÔSHIは、日本の「一寸法師」をフランス人とスペイン人の2人組が文章、絵を新しく描き、話題になった作品です。
昔話ですので、日ごろ目にする文章とは異なる表現が出てきます。過去を示す<単純過去形>が登場。いかにも、昔話を読んでいる気にさせてくれます。訳すときにも、その点を意識して取り組みましょう。
「単純過去形」は、現在のこと、今行われていることから、遙か遠く昔のこと、また、事実でないような昔話やおとぎ話の中で、過去のこととして語られる際用います。
内容は、物語はみなさま、よくご存じです。ですから意味をとっていくことには苦労はないと思いますので、地の文中で、この<単純過去><半過去形>が登場し、会話文中では<現在形><複合過去形><半過去形><未来形>が使われるさまを見てください。
この絵本を翻訳する心構えとして、どんなトーンで翻訳するかを、まず、決めてください。
・大人が、子供語り聞かせるような文章にする
・大人も子供も関係なく、たんたんと訳した文章にする
・フランスの本だから、外国のお話のように仕上げる
など。設定は、訳者の自由ですから、全体を眺め、またはいったん訳し終わり、清書の段階で規定されてもよいでしょう。
① P.2のポイント
このページには、「単純過去形」は出てきませんね。物語の冒頭、シーンを描写しています。
Dans un pays lointain,
昔話の冒頭によく使われるフレーズです。「ある、遠いところで・・・」というような表現です。
別に、Il était une fois… と言う表現も使われます。「昔、昔、あるところに・・・」ですね。
以下に続けると「子供のいないお百姓の夫婦がいました」
続く文章、Il était un couple de paysans…となり、主語はil=一組のカップルですね。ここの時制は『半過去形』となっています。
最近はこのpaysan(農民)を、使うことが少なくなりました。やや、見下したニュアンスがあります。agriculteurを使います。この場合は、昔のことで、しかも今ほど豊かでなかった時代を想定しているため、この表現になっています。
Chaque jours, pour se donner du courage sur le chemin des champs,
この主語は、先に出たilです。
se donner du courageは、“互いに励まし合う”ですね。
彼らの畑は、家から少し離れているのでしょう、その畑に行く道すがら、励まし合うために歌を歌っていました。
歌の内容が書かれています。「赤ちゃんがほしい・・・」と歌っています。
même s’il est tout petit…
même siは“たとえ~であっても”ですから、「たとえとても小さくとも」と歌っています。
Nous l’aimerons petit, petit, petit. ですが、aimeronsは、動詞aimerを主語nousにしたときの単純未来形で、今はない状態を表現しています。「l’」は「le」で代名詞、un petit=赤ちゃんですね。
もし赤ちゃんを授かったら、かわいい、かわいいと慈しみますよと。
そして次の行でもまた、赤ちゃんがほしいと繰り返します。今度の動詞はvoulonsで、vouloirを主語nousにしたときの現在形です。
注目していただきたいのは、5行目から6行目にうつるときに、時制と動詞が変化している点です。
○時制-単純未来形は、あるかどうか不確定なものごとを、比較的ていねいにも述べるのに使われます。一方、現在形は事実・確信になります。
○動詞-aimerが希望を表すのに対し、vouloirは願望にかわります。
時制×動詞の組み合わせで、5行目から6行目は、夫婦の気持ちの高まりが表現されています。
おそらくふたりが歌う声も、大きくなっていったことでしょう。
特に動詞vouloirを、現在形の不定法で用いるのは、願望以上の強さを感じます。
② P.3のポイント
Un miracle survint.
survenirは “突然起こる”の意味です。動詞の形は、単純過去形です。ですから、「奇跡が起こった」となります。
前ページに、赤ちゃんがほしいと強く願っていたことが叶ったのです。
Ils eurent un enfant mais, ils en furent à peine surprise, celui -ci était vraiment petit,
eurent=avoirの単純過去・3人称複数形です。赤ちゃんを授かった、ということです。
このmaisは、一見、直後の文章にかかるように思えます。
が、ils en furent peine surprit 「夫婦はあまり驚きませんでした」 ですので
maisは、むしろ次につづく celui-ci était vraiment petit 「その子はほんとうに小さかったのです」にかかります。
日本語にする場合は、その子は本当に小さかったのですが、夫婦はあまり驚きませんでした。となります。
前のページで、「小さくてもいい」と歌っていたので、夫婦には、授かった子が小さいことは、それほど気にならないと思われます。
c’est pourquoi ils l’appelèret Issun Bôshi
そこで、「一寸法師」と名付けました。その理由は? 以下にあります。
« celui qui n’est pas plus grand qu’un pouce d’enfant. »
彼は、子供の親指より小さかったのです。ここはIssun Bôshiを説明しているカ所で « » に包まれていますから、現在形が使われています。
③ P.5のポイント
さて、「一寸法師」の様子が、語られることになります。
Les années passérent,
年月が過ぎて、ですね。
Il apprit à danser
一寸法師は、なかなか賢く、敏捷な子に育ったようです。踊りや、歌も学びました。
Les gens du pays venaient voir sa façon si drôle d’agiter son petit corps.
「小さな体の動きがとてもおもしろく、彼の振る舞いを見に、周辺地方から人々がやってきました。
Courageux, il aidait ses parents dans leurs travaux et ceux-ci le lui rendaient bien, aimants et reconnaissants.
まず Courageux, il aidait ses parent dans leurs travaux です。
文章の冒頭に、形容詞courageuxがあります。形容詞はふつう、主語の補語となり、être resterなどの動詞のうしろにおかれます。ただし、主語の性質を説明する形容詞の場合、主語より前に置かれることがあります。courageuxは、勇気がある、がんばり屋のなど、主語の長所を説明する形容詞ですので、このように前に置かれています。
いくつもの形容詞が、主語に先行する場合は、形容詞のあとに-や…などを置き、主語と関係していることを示します。
つづいてceux-ci le lui rendaient bien, aimants et reconnaissants です。
ceux-ciは、ses parentsをさします。一寸法師の両親ですね。
次のle lui rendaient bienは、決まり文句で、もとの形は le rendre (bien) à qqn 意味は「誰々にお返しをする、同じ行為や感情で報いる」です。
ここでは、からだの小さな一寸法師が、けなげに畑仕事を手伝うので「両親もまた、その親孝行ぶりにこたえた」のでしょう。
文章はさらにつづき、aimants et reconnaissantsという、ふたつの形容詞が並びます。
男性形でしかも複数です。どの名詞に対する形容詞なのでしょう? おそらくceux-ci一寸法師の両親です。
文章全体はどういう構成になっているのか、考えました。前の文章は、主語の前に形容詞が置かれる例でしたが、この文は、主語から離れたうしろに、主語の性質を説明する形容詞が置かれた、と考えました。「両親もまた、愛情を注ぎ、感謝をこめ、一寸法師の親孝行ぶりにこたえました」と考えました。
※このNO.1の原稿は、2015年7月30日に書いたものです。
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