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さすがアルベルティーヌ!小さい本ながら、アートです。

| 2020年06月07日 17:18 | 吉村正臣 |

Albertine アルベルティーヌ (スイス)

A L’ÉTRANGER
見知らぬ場所へ

フランス語 翻訳付
出版社:LA JOIE DE LIRE

 

スイスを代表するイラストレーターと児童文学者の顔合わせで誕生した小型の絵本です。イラストレーターのアルベルティーヌ(1967年生まれ)は、ブラティスラヴァ世界絵本原画展(Biennial of Illustrations Bratislava: BIB)金のりんご賞、ボローニャ・ラガッツィ賞フィクションの部最優秀賞、国際アンデルセン賞の画家賞と主要な賞を受賞しています。鉛筆や万年筆で描かれる繊細な線が、彼女の絵の特長です。イラスト・ユーロでは、彼女の絵本を数多く紹介してきました。

スイスの児童文学者ユルク・シュービガー(1936-2014)による、楽しくしかも心にしみる物語です。行ったことがないあの場所(原文ではL’ÉTRANGER:外国)はすばらしく、成功できると聞きつけた男が、旅に出ます。どんどん歩いて、よその国にも行きますが、そんな成功できるところには行き当たりません。途中出会った人にも、たずねてみます。しまいには「もと来た道を戻るように」と教えられる始末。そもそも、そんなすばらしい場所はあるのか?旅の終わりに再会した農夫のことばが印象的です。今いる場所で、地道に生きることの大切さに男は気づくでしょうか。

アルベルティーヌらしい、みごとなイラストです。固い鉄ペンで描いているのでしょう、フリーハンドの美しい線です。そしてうまく黒ベタ部分を作っています。男達のデフォルメされた様子がかわいい、いかにも会話をしている風で、楽しい絵になっています。洋服もモダンで、今、町にいてもおかしくないスタイル。丘の起伏や、木々の描き方、そして木々の影など、うまいなあと思います。文字ページの、文字も絵のように組まれ、この本をアート性の高いものにしています。小さい本ながら素敵です。

≪翻訳の一部≫  翻訳:泉りき

大きな靴をはいた男が、道路にいた。もう何週間も前から。

あるとき男は、こんなうわさを耳にした。
行ったことのないあの場所では、ものごとはうまくいくのだと。
それなら、と行ってみたくなった。

男は、歩いた。あの町、この町、国から国へと。
うわさに聞いたようなすばらしい場所など、どこにもなかった。
そのうち、牧草地のそばまでやってきた。

「何をお探しで?」
ひとりの農夫が鋤にもたれかかりながら、聞いてきた。
耳慣れない、不思議な響きのことばを話していた。
歯並びのよい、巨大な口から発せられているようだった。
「見たことのないすばらしい場所です」男は答えた。

「えっ、何です?」
「はい。見たことのないすばらしい場所です」

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