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この作品は、セリグラフだとマトッティ自身が言っていました。一般的にシルクスクリーンと呼ばれる版画のひとつの技法です。原理は、版膜にあけられた孔をインキが通過して印刷される方式。美術界ばかりでなく広く産業界に使われる印刷で、皆様の近くにも見られます。ただ、はじめて聞いたとき、これだけの色が混ぜ合わさった絵で、しかも色の盛り上がり感と言うかボリュームがシルクスで出るのか、と信じられなかったのです。彼は、ローマにある工房の友人にしか刷れない…世界で一人だ、と言いました。面積の広い、黒の面、白の面が、薄っぺらくならず、深さがあります。それは下地に塗り込んだ色がほとんど見えないのですが重要な効果となっています。シルクでここまで表現したのは、私は今まで見たことはありませんでした。
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赤と黒(本当は紺色の深いブルーです)の、シンプルで静かな絵です。描かれている要素は、ベッド上の男女、床だけ。男女の細目は描かれていません、衣服も同じモノ。非常に単純ですが、美しい。この美の凝縮を支えているのが、非常にオーソドックスな『画面構成』です右上、顔を合わせる頭の上あたりが焦点(消失点)となり、そこから放射状に身体が伸びる。斜めに置かれた男性のカラダは、画面を広く見せ、垂直に下りる女性のカラダは安定をもたらせています。基本構造はこれだけ。リズムを生むため、男性の足が、また、足に平行に画面下の、強い赤の床が、放射に逆らう。これにより、右上からの流れに変化をつけています。おおよその三角形が形成され、安定した構成をベースにしているため、単純ながら強い色彩が美しく成立しています。
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一般的に、絵は『色』と『形(点、線も含め)』で作られます。マトッティの作品は色彩が魅力。私どもが保有する2点は、『赤と青』『白と黒』の絞られた色数ながら色彩が特徴です。多くの色を塗り込みながらも、最後に、すべて上塗りして隠してしまっています。自分の感覚にジャストフィットする音色を探し求めるように、色彩を追求します。どんな色より、これが美しいと自慢げに、また感動を持ち選択します。マトッティの色は大胆でありながら、ずらしたような繊細な意外さが持ち味です。日本人の楽譜にはない、半音高いような色が響きます。この、色を支えるのが、形による構成力です。彼は、建築を学びました。これが基礎になっているのでしょう。また故郷近くのヴェネツィアを愛し、その装飾性が根源にあるようです。
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この作品はリトグラフといって版画です。オリジナル版画には、一般に、刷り枚数を明示したエディションナンバー(限定部数)が記載されています。この作品は10/100と示されています。
エディションナンバーは刷りだされた順序や、作品の質とは全く関係ありません。作家は必ずしも限定部数を一度に全部刷らずに、その数の中から後から刷り足すこともあります。分母が100だからといって、100枚しか刷らない訳ではないのです。また1/100と 100/100との間には、質や価格など何ら差異がありません。さらにこのナンバーとともに作家の直筆サインが記入されます。これらがなければオリジナルと認められない場合があり、ナンバーとサインの有無が重要です。