-
作品はリノリウム版画です。リノリウム版画とは、昔、ゴム版版画をしたことありませんか?それがリノリウム版画だったのではないかなと思われます。堅いゴムのような板に、彫刻刀で溝を掘ります。溝の部分にはインクがのらず、残った部分、つまり凸にインクがのり、紙に転写します。木版画と同じ原理です。リノリウムは木版よりも彫りやすく、また油性インキとの相性がよく、広い面をむらなく刷れる特質をもっています。
しっかりした個性的な表現力、黒白がはっきり分かれるコントラストの強さ、豊かなストロークは軟らかい素材を使ってこそ生み出されます。この作品は、その特徴を見事に反映させています。 -
同じ版から作られた作品です。モノクロ調子が『原画』。草原が緑の方が彼の出版物「野生動物の神秘」です。この本は2010年、ボローニャ国際絵本原画展に入賞し、入賞作品が翌年の2011年に出版されたもの。イラスト・ユーロでも話題となりました。原画は、厚手の薄いセピア色の特殊用紙に、黒いインクが重厚にのっているため、シマウマの白黒模様のリズミカルさを持ちながらも、しっかり落ち着いた作品に仕上がっています。一方、本の方は、製版時に色彩処理をしたのでしょう、仕上がりは爽やかに見えます。同じ版を、使い分け見せ方を異ならせるのもよい方法ですね。
-
版画の印刷用紙について研究しましょう。紙は作品にとって大事な一部。紙そのものの質感が自らの感性に合うこと。 版画の機能としては・水やインクの油脂が均一に吸い取られるもの ・伸縮の少ないもの(特に刷り重ねていく場合、伸縮の割合が多いとアタリが狂いやすいため)などが用紙選びに大事です。セバスチャンの場合は、リサイクル素材で作られたグレーの段ボール紙(600g)を使っています。「この紙が気に入っているのは、加工がない素のままで、自然なところが、動物の版画作品にふさわしいと思ったからです」と述べています。段ボールの粗い生地目がリノリウム版画の太く緩やかなストロークとよくあっています。重厚な黒インクののりにも適していますね。
-
この作品の白い部分は、白い版を作り重ねたものではありません。黒い版で刷る前に、あらかじめ白くしたい場所に、白い絵の具を筆で塗っています。作品によっては、筆による塗り跡が見えています。 この絵の具は、アクリル絵の具用下塗り材「ジェッソ」です。
この「ジェッソ」を塗ってから、原版を版画用油性の黒のインクで刷っています。アクリル絵の具をお使いの方はよくご存じですね。
下地材ですから、粗い紙質にもしっかりとのり、この段ボールの地肌とよくマッチしています。リノリウム版画という、大胆なタッチ、素朴な画風を際立てています。
なお、「ジェッソ」は昔、ヨーロッパで使われた絵を描く板の下地にイタリアではGesso(ゲッソ)という石膏が使われましたが、その名が残っているのです。