ヒッチコックの映画を思わせるサイコ・サスペンスなBD
| 2017年03月15日 04:00 | 吉村正臣 |
Maïté Grandjouan マイテ・グランジュアン (フランス)
Fantasma
ファンタスマー夢の中の女
フランス語 翻訳・解説付
出版社: éditions magnani
マイテ・グランジュアンは、2014年ストラスブール装飾美術学校を卒業したばかりの若手アーティストです。イラストレーター、画家としてパリで活動しています。この本は、彼女のはじめてのバンド・デシネ作品。フランスの日刊紙「リベラシオン」の別冊カルチャー紙NEXTでも大きく取り上げられました。
タイトルのFantasmaは、幽霊・亡霊のほか、精神分析の世界では、無意識の欲望を満たす「幻想」を意味します。何かにとりつかれたような、愛する女性に対する男性の一途な思いが、現実と非現実、生きた人間と死者の区別さえわからない場所へ男性を誘います。
有名なギリシャ神話を意識した登場人物と結末が、物語に深さを与えます。主人公の男性をオルフェウスだとすると、愛する女性オルガはエウリュデケ。犬の存在、死の国の王らしきセラピストのホドロスキー。ギリシャ神話では、死んだエウリュデケを取り戻そうとするオルフェウスが、死の世界へ向かうことでふたりは永遠に結ばれます。一方この物語では、男性は死の誘惑をはねのけ、生きることを選びます。
豪華な製本で、画面はコマ割り、フランスのマンガ(BD)の典型的なつくりです。絵は、不透明水彩でていねいに描かれています。静かな画面です。
孤独な人間や待合室など、アメリカの画家エドワード・ホッパーの絵を思わせるシーンを描いています。画風はときにポップで、ドイツロマン主義の画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの影響もあるようです。翻訳でこのスリラーを味わってください。
≪翻訳の一部≫ 翻訳:泉 りき
第一章(P.5-22)
内気で孤独な若い男性は、ある日、家の向かいに住む女性・オルガの姿を見かける。美しくどこか影のあるオルガに、すっかり夢中になる。男性はオルガの生活を見張りつづける。窓から見つめたり、ときに尾行し、彼女にひかれていく。ある夜、オルガの家が火事になる。その火事のさなか、白い装束に覆面をしたふたりの人物が、意識を失ったオルガをひそかに連れ去るのを男性は目撃する。男性は、愛するオルガと、誘拐したふたりのゆくえを探そうとする。男性はまず、セラピストのホドロスキーに、事件について相談に行く。
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